由なし。








「…っは、ぁ…」


ギシリとベッドが悲鳴をあげて、その度に情けない喘ぎ声が漏れる。これは、ただの性欲処理だ。

愛情でもなんでもない、勘違いをするな、と。言い聞かせようとすればするほど、涙が滲んで前が見えなくなった。

これが俺に与えられた仕事だ。そう思えば思うほど、繋がる箇所から、触れる指先から、溶け合って混ざりたい衝動に駆られた。

そうして全てが終わった後に、あの人は必ず煙草を吸った。所詮、自分は男でしかないのだと、そう言われているようで泣きたくなった。

けれど零れるのは嬌声ばかりで、彼に抱かれているというその事実が、ただ俺の誇りであり弱点だった。




ふと気付いた時には意識が飛んでいたらしく、下半身がズキリと有り得ないほどの痛みを訴えていた。

一応事後処理はされているようだが、当然の如く副長は居ない。俺の傍に、居てくれるはずがない。

冷たくなった布団の中に居ると、まるで全てが夢だったんじゃないのかと錯覚を起こす程何もなくて、思わず天井を見て笑ってしまう。

綺麗に何もかもの痕跡がなくて、全てをなかったことにするために彼がわざとそうしたのだと嫌でもわかって、理解してしまった。

こういう時、勘が良いというのも考えものだなといつも思う。

何も知らないまま、何も気付かないまま、そうして抱かれているのならば、どんなに楽だっただろう、と思う。

そうして、彼の傍に居られたのなら、どんなに幸せだったのだろうと思ってしまう。そんなことが、あっていいはずがないのに。

いつからか俺はあの人を慕って、特別な感情まで抱くようになって、ふとした弾みで一線を越えてからズルズルとこの関係が続いている。

正直なところ、苦しい、と思う。答えの出ない方程式を延々と解いているようなものなのだ。

苦しいと思わないわけがないし、投げ出したいと思わないわけがない。

現に何度もあの指先を拒もうと勇気を振り絞って、それでもあの瞳に見つめられると、それだけで何も言えなくなった。


「…副、長。」


冷たい部屋に俺の声が響く。こんな弱気な自分は有り得ない。こんなことで悩んでいるだなんて、誰にも言えない。

男に抱かれていて、しかもそこには愛情はなくて、それでも俺はあの人のことが、好きで好きで好きでたまらないのだ、なんて。

誰にも言えないし、誰にも言わない。土方さんが好きなのだ、と口に出すことなど無くていい。


「……っ…。」


泣かなくて良い場面でばかり、無駄に涙を流している気がする。最近、涙脆いなあと自嘲すれば余計にボロボロと大粒が落ちた。

届かない、のに消えてはくれない。彼を好きでいることすらも俺には許されることなどないのに、彼を忘れることすら許されない。

全てを無かったことにしようとして、永遠に続くことを願っている。悟られることのないように冷静を装うフリをして、気付かれる事を望んでいる。

抱きしめてキスをして微笑んで、そんなまるで恋人同士のそれのようなものを、あの人に望んでいる自分がいる。


「…ふく、ちょ…っ…。」


一度で良い。たった一度で良い。それですべてが終わっても良い。事切れる前の、一瞬で良い。

滲む視界が捉えたものはぼんやりと佇むヒトガタの影で、静かな部屋の外の世界はいつの間にか雨音が鳴っていた。

俺にはそれが終わりのように思えて、目を閉じる寸前に小さくないた。俺の世界はいつだって、あの人が居ることが絶対だった。




fin.